ヨアヒム・ラフ – 知られざるスイスの大作曲家、解説と名曲選!(音源付き)

3.名曲選

個人的に好きなラフのおすすめ楽曲を今回は13曲ご紹介します。ジャンル別・作曲年順に並べております。お気に入りが増えたら追記します。

名曲 交響曲

1.交響曲第3番「森の中で」 / Symphony No.3 ” Im Walde”, Op. 153

ラフが1869年(47歳)で作曲した交響曲です。全三部構成ですが、事実上4楽章構成になっています。曲はベートーヴェンの交響曲第6番「田園」と同じように、森での気分や情景を暗示するタイトルが各楽章に付いた標題交響曲となっています。

当時アメリカの評論家は「現代の最高の交響曲で、ベートーヴェンとシューマンの作品を後に行くにふさわしい非常に少数のもの」と評価していました。標題に沿って描かれており、わかりやすく名曲です。解説はWikipediaRaff.orgを参考にしています。

第一部 昼(I.Abtheilung: Am Tage)
1.「印象と感情」(Eindrücke und Empfindungen)
森の中を歩くことによって引き起こされる気持ちを表しています。

第二部 夕暮れ(II.Abtheilung: In der Dämmerung)
2. 「夢」(Träumerei)
3. 「木の妖精の踊り」(Tanz der Dryaden)

第三部 夜(III.Abtheilung: Nachts)
4. 「森の中の静けさ。ホレおばさんとヴォータンの狩りへの出発。夜明け」(Stilles Weben der Nacht im Walde. Einzug und Auszug der wilden Jagd mit Frau Holle (Hulda) und Wotan. Anbruch des Tages.)
妖怪や精霊たちの狩り(ワイルドハント。日本でいう百鬼夜行のようなもの)が色彩豊かな管弦楽法で描かれています。最後に第1楽章の第2主題が再現され、太陽が昇ったことが表現されます。

IMSLP / Symphony No.3, Op.153 (Raff, Joachim)

2.交響曲第5番「レノーレ」 / Symphony No. 5 “Lenore”, Op.177

ラフが1872年(50歳)で作曲した交響曲です。全三部構成ですが、事実上4楽章構成になっています。曲はドイツとスイスでの宗教改革による新教派(プロテスタント)とカトリックとの対立のなか展開された最後で最大の宗教戦争「三十年戦争」をテーマにしたゴットフリート・アウグスト・ビュルガー詩「レノーレ」を題材に作曲されました。ちなみに、英語版Wikipediaでは詩「レノーレ」のあらすじではヨーロッパ全土の戦争になった七年戦争」が舞台、というような書かれ方をしていました。どちらでしょう?

こちらも標題に沿って描かれておりわかりやすく、間違いなく名曲といえるでしょう。

詩「レノーレ」のあらすじはこんな感じです。

あらすじ

「レノーレという若い女性の婚約者ウィリアム(ヴィリアム)は戦争から戻ってこなかった。彼が軍隊で戦いに行って以来、レノーレは毎日ウィリアムを心配し、彼の帰りを待ち望んでいたがウィリアムからの知らせはなかった。ウィリアム以外の他の軍人たちが戦争から戻ってきたとき、レノーレは神を恨み始め、神は不公平であると不満を言い、神は自分に何もしてくれなかったと言い放った。レノーレの母は、そのような考えは冒涜的でレノーレが地獄に連れていかれると思い、神に許しをこいた。また、レノーレの母はレノーレに「ウィリアムはきっと外国(ハンガリー?)で女性を見つけたのだから、彼のことは忘れなさい。」と言った。

ある真夜中、ウィリアムのような不思議な見知らぬ人が、レノーレを探してドアを叩き、夫婦の契りを交わすために馬に乗って同行するように頼んできた。レノーレは嬉しく思い見知らぬ人の黒い馬に乗り、2人は月光の下で不気味な景色がいっぱいの道を熱狂的なペースで進んでいった。恐ろしいことに、レノーレはなぜ急いでいるのか知りたいと尋ねた。彼は「死への旅路は速い」と答えた。ウィリアムはレノーレに「死は怖いか」を幾度となく尋ねた。

日の出のとき旅は終わり、墓地のドアに到着した。馬が墓石を通過すると、ウィリアム?はその人間の姿を失い始め、大鎌と砂時計を持った骸骨の「死」であることが明らかになった。新婚夫婦のベッドは、ウィリアムの壊れた鎧と一緒にウィリアムの骸骨がある墓のことだった。レノーレの足元の地面は崩壊し始め、月光の中で霊魂たちは死にゆくレノアを取り巻いて踊り、「天国では誰も神と喧嘩しない」と言い放った。レノーレは死刑に処されたが、許しへの希望を持ち続けている。」(以上Wikipedia Lenore他より意訳)

ラフ自身も、この交響曲について下記のように記しています。
「恋人2人の幸福は戦争によって中断された。仲間と一緒に行かなくてはならない時が来た。彼女は一人残された。孤独の中で彼女は凶悪な予感を覚え、熱に陥り幻覚によって死のために準備する。」
特にレノーレのあらすじ部分は上記「孤独の中で~」以降の話なのでしょう。

楽曲の説明はWikipediaよりもRaff.orgを見ていただいたほうがよいかもしれません。微妙に異なっています。また、曲を聴くときもIMSLP等でスコアを見ながらのほうがいいと思います。

第一部 愛の幸福(Liebesglück)
1. Allegro
この楽章は、ラフ自身が「愛の幸福を願って欲しい」と述べたと言われています。恋人の幸福を説明する以外は、レノーレの詩とは直接関係がないようです。

2. Andante, quasi Larghetto
この楽章は、ラフによると「愛の幸福の楽しさ」を描いた「愛の場面」とのことです。「夜の始まり」から始まり「2人の恋人の会話」、「キスの交換」等が描写されているようです。

第二部 別離(Trennung)
3. Marsch-Tempo – Agitato
この楽章について、ラフは「恋人の住居への部隊が近づく…恋人たちは別れを告げ、部隊は行進する」と書いています。実際、前半のマーチで部隊が近づき、中間部で別離を表し、後半のマーチで恋人を連れた部隊が去っていくところを表現しているようです。

第三部 死しての再会(Wiedervereinigung im Tode)
4. Introduction und Ballade (nach G. Bürger’s “Lenore”)
Allegro – Un poco più mosso (quasi stretto)
この楽章は、詩の出来事を描写したものだといわれています。あらすじの内容が第三部で起こるように、不気味な光景のなかを馬が駆けていくシーンが描かれています。クライマックスで音楽が突然に断ち切られ、レノーレの死が暗示されます。コーダではコラールとなり、死による浄化と救いを表わして安らかに終わります。

IMSLP / Symphony No.5, Op.177 (Raff, Joachim)

名曲 管弦楽曲

3.序曲「神はわがやぐら」 / Ein feste Burg ist unser Gott, Op.127

ラフが1865年(43歳)に作曲した序曲です。実際には1854年に書かれた未発表の一連の付随音楽「Bernhard von Weimar」への序曲の改訂版でもあります。宗教音楽を題材にしており、とても美しく綺麗です。管楽器と弦楽器がそれぞれの役割を最大限に発揮しているように感じます。曲もコラールのような部分から、争いのような激しい部分もあります。

神はわがやぐら」はキリスト教プロテスタントを誕生させた宗教改革の中心人物マルティン・ルター(1483年 – 1546年)が作詞・作曲した讃美歌(コラール)で、プロテスタントで最も歌われる愛唱歌の1つです。「宗教改革の戦いの讃美歌」とも言われます。
ドイツ語では「Ein feste Burg ist unser Gott」といい、英訳では「A Mighty Fortress Is Our God」、直訳では「堅い城塞は私たちの神」という意味合いです。神=やぐらなのではなく、城塞=神という雰囲気でないでしょうか。
「神はわがやぐら」の歌詞はWikipediaで確認できますが、ニュアンスが正しいかどうかはドイツ語を確認したほうがいいと思われます。

なお、ラフの他にも「神はわがやぐら」を題材にした作曲家はたくさんおり、J. S. バッハのカンタータ「われらが神は堅き砦」(ドイツ語のタイトルだとEin feste Burg ist unser Gottで全く同じ)、F. メンデルスゾーンの交響曲第5番「宗教改革」第4楽章のコラール主題、マイアベーアのオペラ「ユグノー教徒」の序奏、ワーグナーの皇帝行進曲(Kaisermarsch)のモチーフにも使われています。

IMSLP / Ein feste Burg ist unser Gott, Op.127 (Raff, Joachim)

4.序曲「ダーメ・コボルト(ファントム・レディー)」 / Dame Kobold Overture, Op. 154

ラフが1869年(47歳)に作曲したオペラ「Dame Kobold」Op. 154の序曲です。オペラの詳細についてはRaff.orgのDame Koboldをご覧ください。楽曲はリズミカルで暗めな印象で始まりつつも、最後には疾走感のある曲になっています。序曲としては申し分なく、現在でもオーケストラの前プログラムとして用いることが可能なのではないでしょうか。

5.管弦楽のためのラプソディー「夕」 / Rhapsodie “Abends”, Op.163b

ラフが1874年(52歳)に作曲した管弦楽のためのラプソディーです。1871年に作曲した「ピアノのための組曲第6番, Op.163」の5. Rhapsodieを管弦楽に直したものと思われます。情報は少ないですが、美しいオーケストレーションで厳かな印象があります。ピアノ版は楽譜がありますのでリンクを載せておきます。演奏会のアンコールに良いかもしれません。

IMSLP / Suite No.6 for Piano, Op.163 (Raff, Joachim)

名曲 協奏曲等

6.ピアノと管弦楽のための「春への頌歌」/ Ode au Printemps, Op.76

ラフが1857年(35歳)で作曲し、1860年(38歳)に出版されてハンス・フォン・ビューローが絶賛してラフの名声が高まることとなったピアノと管弦楽のための楽曲です。単一楽章ですが、3つのセクションに分かれています。

ラフがリストの元を離れて妻と結婚した頃の作品で、タイトルどおり春へ向けた優しさや甘美さに溢れた楽曲です。ラフは現代こそ名が知られていませんが、後世に影響を与えた作曲者であることがわかるように、様々な作曲者の構成やフレーズと似ている部分があります。

第1セクションの、冒頭のチェロのフレーズはJ. オッフェンバックのオペラ「地獄のオルフェ」(1858年初演)の序曲(カール・ビンダー編纂)のチェロによるテーマに似ていますね。このチェロのテーマはオペラ「地獄のオルフェ」のエウリディーチェの歌(youtube)で出てきますが、作曲年代が近すぎてラフとオッフェンバックのどちらが先かも不明ですし、1860年直前にこのようなフレーズが当時ドイツやオーストリアで流行っていたのかもしれません。調も同じですから、何かしらの関連はあったのかもしれません。しかし単に他人の空似ということもありますから、どなたか詳しい方に聞いてみたいところです。

その他にも、第2セクションのフレーズ(例:下の動画の7:17~7:28)はチャイコフスキーの交響曲(第6番第一楽章等)で出てくるフレーズと似ています。これは実際、チャイコフスキーがラフを崇拝していたという話もあります。チャイコフスキーの交響曲第5番(1888年作曲)の第二楽章はラフの交響曲第10番(1879年作曲)の3楽章から引用されているほどです。

第3セクション(17:10~)あたりも誰かのピアノ協奏曲に似たフレーズがあった気がします。もちろんラフ自身も参考にしてきた作曲家が多数いるでしょうから、そういった観点から見ると、ラフのクラシックとしての立ち位置は先人たちを受けつぎ個性的な後輩を生み出していく基になる役割をしていたんだとわかる楽曲になっています。

IMSLP / Ode au printemps, Op.76 (Raff, Joachim)

7.ピアノ協奏曲 / Piano Concerto, Op.185

ラフが1873年(51歳)に作曲したピアノ協奏曲です。全3楽章で、第1楽章は壮大なオケとピアノの協奏、第2楽章はオケに導かれるピアノの甘美な独奏、第3楽章は終幕のオケとピアノの競演、みたいなイメージがあります。個人的に一番好きな曲です。

完全に個人の好みの話ですが、ピアノ協奏曲で好きなタイプは「メロディーがかっこいい」、「作曲者の性格があふれてる」、「オーケストラとピアノが独立し、そして融合される流れがある」、「オーケストラが鮮やか」というものが多いです。
このラフのピアノ協奏曲は、メロディラインに木管楽器が使われることが多く音色が豊かであることに加え、メロディ自体もC-mollでカッコよさがあり、オーケストラとピアノが独立しそして融合しあうという私の好みにビッタリはまっているものです。

第1楽章でC-mollでメランコリックかつ勇壮に始まり、第2楽章で優美さを奏で、第3楽章でフィナーレを演出する序・破・急のような流れも見事です。

IMSLP / Piano Concerto, Op.185

I. Allegro

II. Andante, quasi Larghetto

III. Allegro

8.チェロ協奏曲第一番 / Cello Concerto No.1, Op.193

ラフが1874年(52歳)に作曲したチェロ協奏曲です。全3楽章で、第一楽章と第二楽章attaccaで演奏されます。第一楽章はラフが得意とする短調ながらも軽快でかっこいいメロディー、第二楽章は優しい調べ、第三楽章は明るく軽快にフィナーレを飾ります。Youtubeでは管弦楽版がなくなっていたので、ピアノとチェロの二重奏版でお送りします。なお、IMSLPもピアノとチェロの二重奏版しかありません。オーケストラ版を聴いたことがありますが、ラフらしい鮮やかな音色になっています。個人的に4番目に好きな曲です。

IMSLP / Cello Concerto No.1, Op.193 (Raff, Joachim)

名曲 室内楽

9.ピアノ三重奏曲第4番 / Piano Trio No.4, Op.158

ラフが1871年(49歳)に作曲した、ヴァイオリン、チェロ、ピアノのための三重奏曲です。全4楽章で、第1楽章が伸びやかに明るく、第2はやや暗く(しかし中間部は甘美です)、第3楽章も甘いメランコリーさがあり、第4楽章は熱く…というイメージです。別名「大三重奏曲(Grand Trio)」というように、演奏時間は全部で30分近くありますが、曲全体を通して大三重奏曲の名に恥じぬストーリー感があり、特に第4楽章の後半ではクライマックスにむけての盛り上がりが感動します。個人的に2番目に好きな曲です。

IMSLP / Piano Trio No.4, Op.158

I. Allegro
II. Allegro Assai
III. Andante Quasi Larghetto
IV. Allegro

10.シンフォニエッタ / Sinfonietta, Op.188

ラフが1873年(51歳)に作曲した、フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット各2本編成のF-durの木管10重奏曲です。全4楽章で、どの楽章も明るく溌溂としており、各楽器の特徴も活かされています。シンフォニエッタは「小交響曲」と訳されることもあるように短い交響曲の形式をとっていて、各楽器が演奏する量も結構多いです。比較的フルート1番とクラリネット1番が大変ですが、とてもやりがいのある楽しい曲でもあります。また、シャルル・グノーの「Petit Symphonie (小交響曲)」や、リヒャルト・シュトラウスの13管楽器のための楽曲に影響を与えたといわれています。個人的に3番目に好きな曲です。

IMSLP / Sinfonietta, Op.188

I. Allegro

II. Allegro molto

III. Larghetto

IV. Vivace

11.ピアノ四重奏曲第2番 / Piano Quartet No.2, Op.202

ラフが1876年(54歳)で作曲したヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノのための四重奏曲です。全4楽章で、短調ながらもAllegroの楽章が多くリズミカルです。ラフの曲で特徴的なのは、楽器が少ないのに曲が音が厚めで重厚感が感じられるところです。この曲も例にもれず4人での演奏ですが、演奏時間も40分と長めで壮大です。

IMSLP/ 2 Piano Quartets, Op.202 (Raff, Joachim)

I. Allegro
II. Allegro
III. Larghetto
IV. Allegro

名曲 器楽曲

12.6つの作品 / 6 Morceaux, Op.85

ラフが1859年(37歳)に作曲したピアノとヴァイオリンのための小品集です。6曲あり、以下の構成になっています。特に3番のカヴァティーナは当時から大人気でした。

1. Marcia
2. Pastorale
3. Cavatina
4. Scherzino
5. Canzone
6. Tarantella

ヴァイオリンとピアノで演奏されるのもとてもよいのですが、中にはコントラバスとピアノで演奏されているものもあり、とても心地よく響きます。

IMSLP / 6 Morceaux, Op.85 (Raff, Joachim)

3. Cavatina(Cb)

6. Tarantella(Vn)

6. Tarantella(Cb)

13.2つのロマンス / 2 Romances, Op.182

ラフが1873年(51歳)に作曲した、ホルンとピアノの器楽曲です。ホルンの柔らかくあたたかな音色に酔える珠玉の1曲(2曲?)になっています。

IMSLP / 2 Romances, Op.182

1. Romance in F major
2. Romance in B-flat major

4.おわりに

いかがでしたでしょうか。ヨアヒム・ラフに少しでも興味をもっていただけましたでしょうか?

私がもともと好きだった楽曲もありましたが、記事を書く上で調べて好きになった曲もあります。こんなに聴きやすく美しいロマン派の楽曲があるので、ラフがもっと取り上げられ、人気が出てくれることを願ってやみません。

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