【木五】知られざる名曲!聴きやすいマイナー木管五重奏曲10選!part1

こんにちは、H. Châteauです!みなさん、クラシックの木管五重奏のために作られた曲で、有名な曲はどれくらい思い浮かびますか?木管奏者なら、ジャック・イベールの「三つの小品」ポール・タファネルの「木管五重奏曲」ダリウス・ミヨーの「ルネ王の暖炉」、少しコアなものだとカール・ニールセンの「木管五重奏曲」サミュエル・バーバーの「夏の音楽」パウル・ヒンデミットの「小室内楽曲」などが挙がると思います。

今メジャーな曲はこれくらいだと思いますが、木管五重奏のための曲は他にも様々な作曲家が作曲しております。あまり知られていないマイナー木管五重奏曲のうち、特に聴きやすいものを10曲選びましたので、ご紹介します!なお、一部編成が特殊な物も含みますのでご了承ください。紹介する順番は作曲された年順です。
(冒頭の写真は1931年に撮影されたプラハ木管五重奏団)

1.ブリッチャルディ「木管五重奏曲」(1875年)

イタリアの作曲家、ジュリオ・ブリッチャルディ(1818年~1881年)が1875年(57歳)に作曲したD-durの木管五重奏曲です。ロマン派らしい明るく聴きやすい音楽です。あまり複雑な和音や構成になっておらず、細かい動きやメロディーで木管の華やかさを示す曲になっています。

3楽章からなっており、1楽章はフルートとクラリネットを中心に軽快に、2楽章はフルートの前奏に続くオーボエがメロディックに、3楽章はフルートとクラリネットが快活に演奏します。ブリッチャルディ自身がフルート奏者だったこともあり、フルートが大変目立つ曲です。古典~ロマン派の木管五重奏によくあるフルート・オーボエがメロディーで、クラリネットがメロディーと伴奏を、ホルンとファゴットが伴奏という構成になっています。

ブリッチャルディはフルートのための曲をたくさん作曲していますが、交響曲や管弦楽曲といった他の曲はあまり作曲しなかったようです。ブリッチャルディは「フルートのパガニーニ」と呼ばれたこともあるほどフルートの名手だったようで、楽器の改良にも貢献しました。フルートのキー機構に「ブリッチャルディ・キー」というものがありますが、それは彼の名前から付けられています。

Wikipedia(英語) / Giulio Briccialdi
IMSLP / Wind Quintet No.1, Op.124 (Briccialdi, Giulio)

2.クルークハルト「木管五重奏曲」(1898年)

ドイツの作曲家、アウグスト・クルークハルト(1847年~1902年)が1898年(51歳)に作曲したC-durの木管五重奏曲です。こちらも後期ロマン派らしい聴きやすい曲です。4楽章構成になっており、1楽章は静かな優しいオープニングの後全員で軽快に演奏します。2楽章はフルート・オーボエ・クラリネットのメロディーと裏のファゴットの細かい動き、ホルンの対旋律が光りながら全員で軽快かつリズミカルに演奏します。3楽章はどこか牧歌的なメロディーをオーボエやフルートを中心に優しく奏でます。4楽章は始まりがやや暗めで荘厳ですが、途中から細かい動きが増えて全員で演奏し、フィナーレ感を醸し出します。

どの楽章も動きがあり前に進みやすい音楽で、木管らしさが十分に出る音の使い方をしている曲だと思います。クルークハルトが交響曲やオペラも書く作曲者であったことも影響しているのでしょうか、各楽器にまんべんなく役割が与えられているように思います。曲の構成や楽器の使い方もブリッチャルディに比べると複雑です。

クルークハルトは指揮者や作曲者、音楽監督として人生を過ごしたようですが、54歳で亡くなっていたり、ドイツ以外で活躍した記述も今のところ見当たらないことから、いわゆる「忘れられた音楽家」であるように思います。しかし、彼が死去したドイツのデッサウ=ロスラウ市には記念碑も建てられており、彼の曲の録音も最近進んでいることから、少しずつ再評価が始まっている作曲家なのでしょう。

Wikipedia(英語)/ August Klughardt
IMSLP / Wind Quintet, Op.79 (Klughardt, August)

3.ホルスト「木管五重奏曲」(1903年)

イギリスの作曲家、グスターヴ・ホルスト(1874年~1934年)が1903年(29歳)に作曲したAs-durの木管五重奏曲です。ホルストは後期ロマン派に組する作曲家で、この五重奏曲は彼の若い頃の曲であり、聴きやすいです。

1楽章はややメランコリックにクラリネットで始まり、長調の曲ながらもやや神秘的に続きます。2楽章はホルン・オーボエ・フルート・クラリネット…と牧歌的な優しいメロディーがつながっていきます。途中盛り上がりますが、すぐまた優しいメロディーに戻り穏やかに曲が続きます。3楽章は3拍子のメヌエットのリズムに乗りながら、クラリネットやフルートが踊ります。中間部は全員で軽快に動き回り、またメヌエットに戻ります。4楽章はフルートが提示した主題を変奏していきます。全体的にAs-durのほのかなメランコリックさと美しさが冴えている曲といえます。


ホルストは「惑星」で有名ですが、他にもオペラやピアノ曲、合奏曲、管弦楽曲を作っており、「日本組曲」という曲も作曲したようです。弦楽合奏の「セントポール組曲(imslp / youtube)」や、「吹奏楽のための第1組曲(imslp / youtube)」、「吹奏楽のための第2組曲(imslp / youtube)」など、各楽器界では有名な曲があります。一方、木管五重奏曲は知名度が低いのか、あまり日本の演奏会で取り上げられるのを耳にしません。知られていないのか演奏会に用いるレベルの曲ではないのかはわかりませんが、聴かれないことには知名度も上がりませんので、ここでご紹介しました。なお、IMSLPには2017年時点楽譜はありません。

Wikipedia(日本語)/ グスターヴ・ホルスト
IMSLP / Holst, Gustav

4.カルク=エーレルト「五重奏曲」(1913年)

ドイツの作曲家、ジークフリート・カルク=エーレルト(1877年~1933年)が作曲した木管五重奏のための曲です。この曲は「Ob, 2Cl, Hr, Fg」の五重奏曲となっており、フルートがありませんのでご注意ください。曲はロマン派らしい聴きやすい構成になっています。

3楽章構成で、1楽章が短調のTuttiで激しめに始まり、リズミカルな部分と優しいメロディーが繰り返されながら曲が進んでいきます。クラリネットやファゴット、ホルンが時折駆け上がっていく音型が序章的な雰囲気を出しています。2楽章はクラリネットに始まるやさしいメロディーが全体的に続きます。1楽章とは全く違う雰囲気です。3楽章は小刻みに元気よく始まり、伸ばしの音とテンポよく動いている音の対比が面白くなっています。どの楽章も2本のクラリネットとファゴットの低音の使い方が上手く、ホルンにもしっかりメロディーを渡せている印象を受けます。フルートが無い分、高い音の華やかさが少ないですが、オーボエやホルンもメロディーにも起用し、クラリネットやファゴットを効果的にメロディーと伴奏・和音に配置して纏めているのが素晴らしいです。



カルク=エーレルトは交響曲は作っておらず、作品はオルガン、ピアノ、ハーモニウム等の鍵盤楽器が多くなっています。一方、フルートの曲も多く、フルートの教材として使われている曲もあるようです。当初はワーグナーの影響を受けて作曲していましたが、近代音楽の影響を受けて調性が明確でないへ舵を切ったところ、ドイツでは「フランスとイギリスの影響を無駄に受けた折衷主義者」と批判され、晩年ほとんど支援者がいなかったそうです。このため、「忘れられた作曲者」となってしまったのではないでしょうか。なお、イギリス、フランス、アメリカでは特にオルガン曲で人気があったようです。

Wikipedia(日本語)/ ジークフリート・カルク=エーレルト
IMSLP / Wind Quintet, Op.30 (Karg-Elert, Sigfrid)

5.ブルーメル「木管五重奏曲」(1924年)

ドイツの作曲家、テオドール・ブルーメル(1881年~1964年)が1924年(43歳)に作曲した木管五重奏曲です。作曲者が活躍した時代的には後期ロマン派や20世紀前半になりますが、曲自体は聴きやすいものになっています。

1楽章が映画音楽みたいなホルンに始まるオープニングで、1楽章を通してホルンの存在感が大きいです。2楽章は各楽器がゆったりしたメロディーを奏でます。途中、ホルンのソロの中で木管楽器が不思議な雰囲気を作り出すような部分もありユニークです。3楽章はファゴットのリズムの中オーボエやフルートが優しいメロディーを奏でます。中間部で軽やかで賑やかな動きに変わり、元に戻ります。4楽章はホルンでかっこよく始まり、全員で元気に動いていきます。全体的にホルンを効果的に使っており、木管アンサンブルとは思えないほど曲の広がりがあります。

ブルーメルは日本では著作権保護期間が切れたものの、他の国では著作権保護期間が残っているところもあり、まだまだこれから名前が知られていく作曲家でしょう。交響曲はないものの、オペラや管弦楽曲、室内楽も作曲しています。弦楽アンサンブルやフルート、木管のための作曲が多いので、室内楽方面で知られていくかもしれません。

Wikipedia(ドイツ語)/ Theodor_Blumer
IMSLP / Blumer, Theodor Anton

6.ツェムリンスキー「ユーモレスク」(1939年)

オーストリアの作曲家、アレクサンダー・(フォン)・ツェムリンスキー(1871年~1942年)が1939年(68歳)に作曲した木管五重奏曲です。作曲者自身は後期ロマン派ではなく20世紀初期の作曲家に分類されていますが、この曲自体は明るく軽やかで、最初に提示される主題や、度々同じ音型が出てくるため、かなり聴きやすいと思います。曲も5分程度の短いもので、親しみが持てるのではないでしょうか。

ツェムリンスキーは作曲家や指揮者として有名だったようで、複数の交響曲やオペラ、管弦楽曲を残しています。なかでも交響詩「人魚姫」はとりわけ有名かもしれません。室内楽も弦楽四重奏やクラリネットのアンサンブル曲を作っており、その界隈では有名かもしれません。研究が深まれば、今後さらに彼の曲を取り上げることが増えていくと思います。

Wikipedia(日本語)/ アレクサンダー・(フォン)・ツェムリンスキー
IMSLP / Humoreske (Zemlinsky, Alexander von)

7.ニーノ・ロータ「小さな音楽の贈り物 」(1943年)

イタリアの作曲家、ニーノ・ロータ(1911年~1979年)が1943年(32歳)に作曲した木管五重奏曲です。ニーノ・ロータは20世紀のクラシック作曲家ですが、特に映画音楽で有名になった作曲家です。本人は「本業はあくまでクラシックの作曲であり、映画音楽は趣味にすぎない」と言っていたようです。映画音楽が仕事にあったのもあってか、この曲は近現代的な要素…平たく言えば変なリズムや和音がほとんどありません。民謡のような始まりの後、軽快で疾走感のある爽やかな音楽になっていき、また民謡のようなメロディーに戻り、さらに疾走感が出るかと思いきや終わるというとても分かりやすく聴きやすい曲です。時間も3分ほどの短いものです。なお、著作権は切れていないため、演奏する場合は楽譜の購入が必要です。

ニーノ・ロータの最も有名な著作は映画「ゴッドファーザー」の「愛のテーマ」でしょうか。他にも映画「山猫」のテーマなど、有名なものがいくつかあります。アカデミー賞やゴールデングローブ賞を受賞したこともある作曲家ですので、そのような方がちゃんと木管楽器のための曲を作ってくれていたことを嬉しく感じます。

Wikipedia(日本語)/ ニーノ・ロータ
The Nino Rota Catalog / Piccola Offerta Musicale per Flauto, Oboe, Clarinetto, Corno e Fagotto

8.ボザ「木管五重奏のためのスケルツォ」(1944年)

フランスの作曲家、ウジェーヌ・ボザ(1905年~1991年)が1944年(39歳)に作曲した木管五重奏のための曲です。作曲者は20世紀の人ですが、彼の作風は特殊な技法や奏法を用いず、一般的な奏法の範囲内で創作されています。

このスケルツォはまるで吹きすさぶ風のような曲で、奏者はかなりの頻度で細かい動きをしていなければならず演奏には個人の技術とアンサンブル力が必要ですが、しっかりとした曲になっており、Wind Quintetの名のとおりWind(風)を味わうことができるとても素晴らしい曲です。曲も3分に満たないくらいで、プロの演奏会でも小品として使われていくでしょう。曲が終わる直前がコミカルで可愛いです。

ボザは管弦楽作品やオペラも作曲していますが、とりわけ管楽器や弦楽器のための作品が有名で、コンクールや音大入試の課題曲として頻繁に取り上げられているようです。また、多くのフランス人作曲家の影響を受けているようで、いろんな曲で様々な作曲家の引用があるようです。ホルストと同様、フルートとピアノの「5つの日本風の主題による詩」、パーカッションの「3つの日本風の素描」、「日本風のアリアによる狂詩曲」といった日本をモチーフにした曲も作曲しています。著作権は当分切れませんので、演奏する場合は楽譜を購入する必要があります。

Wikipedia(日本語)/ ウジェーヌ・ボザ

9.フローラン・シュミット「貿易の風」(1952年)

フランスの作曲家、フローラン・シュミット(1870年~1958年)が1952年(82歳)に作曲した木管五重奏のための曲です。作曲者が20世紀初期に活躍した人物であり、作曲年代が1950年を超えていることもあり、調性は残っているものの楽譜に臨時記号がかなり使われていたり、変拍子が入ったりするなど近代的です。ミヨーやイベールよりもメロディはわかりにくく、ヒンデミットやニールセンの木管五重奏に雰囲気が近い曲で、ロマンティックな演奏が好きな方は少し苦手かもしれません。逆に近代的な和音や動きが好きな方は結構好きではないでしょうか。

4楽章からなっており、1楽章はたまに出てくるファンファーレ風が印象的で、2楽章は速くないものの動きがリズミカルで、3楽章はゆっくり、4楽章は動きはありますが楽譜を見ていないと少し長く感じます。

フローラン・シュミットは、管弦楽曲や器楽曲を中心に名を残していますが、ホルストと同様クラシック系の作曲者にしては珍しく「セラムリク(imslp / youtube)」や「デュオニソスの祭り(imslp / youtube)」といった吹奏楽曲も作曲しております。
余談ですが、フローラン・シュミットは同時代のオーストリアの作曲家にフランツ・シュミットがおり名字が同じであるため、区別の為にフルネームで書く必要があります。フランツ・シュミットは交響曲やクラリネット五重奏等を作曲している作曲家です。

Wikipedia(日本語)/ フローラン・シュミット
IMSLP / Chants Alizés, Op.125 (Schmitt, Florent)

10.セルヴァーンスキ・エンドレ「木管五重奏曲第1番」(1953年)

ハンガリーの作曲家、セルヴァーンスキ・エンドレ(1911年~1977年)が1953年(42歳)に作曲した木管五重奏曲です。エンドレは近現代作曲家ですが、その割にはこの曲はかなりクラシックっぽく作られています。エンドレは後年に12音技法の曲を作っているので、この曲はまだそこに至る前の曲かもしれません。

曲は4楽章からなっています。1楽章は民族調のオーボエが提示するテーマをフルート、クラリネットで引き継ぎ、ところどころファゴットやホルンにもメロディーが出てきます。全体的に明るく動きのある楽章ですが、さりげない技術力が試される部分が多く感じます。2楽章もアフリカン?チックなリズムが独特で、調性音楽で聴きやすくはあるもののかなり現代的な技術力が必要な曲になっています。3楽章はゆったりしたメロディーを各楽器がソロなりユニゾンなりで演奏します。4楽章は疾走感のあるテーマをオーボエ、フルートが演奏していきます。若干メロディが和風にも感じます。リズムもなんだか日本の曲にありそうな気がしてしまいます。是非ちゃんとしたスコアの解説を読みたいところです。

確かにクラシック音楽なのですが、どことなくリズムがアフリカチックだったり、メロディが民族調だったり、どの楽章も独特な雰囲気を持っています。そのため、とても新しい音楽に感じます。曲は聴きやすいのですが、演奏する方はかなりの技術力と表現力が必要でしょう。しかし、これぞ近代の王道木管五重奏曲といって差し支えないような印象を持つ曲です。




エンドレはリスト音楽院でクラリネットを学び、当初クラリネットのプロとして活動し、のちに作曲を学び直しました。その後、いくつかの音楽学校で音楽理論を教え、リスト音楽院の教師になりました。一時、大統領に選出されるハンガリー音楽協会のメンバーでもあったようです。ハンガリーで著名な作曲家等に贈られるフェレンツ・エルケル賞やコシュート賞などを得ており、ハンガリー国内では有名な作曲家だったと思われます。著作にピアノやヴァイオリン、フルートやクラリネット等比較的室内楽や器楽曲が数多くありますが、クラリネット協奏曲やオ―ケストラ曲もあり、映画音楽も作っていたので、活動の幅は広かったのでしょう。著作権の保護期間が終わるまでまだありますので、演奏する際は楽譜の購入が必要です。

Wikipedia(日本語)/ セルヴァーンスキ・エンドレ

あとがき

いかがでしたでしょうか?マイナー曲でも思いのほか聴きやすかったかと思いますし、スコアがあるものは読みながら聴くとまた違った面白さが見られると思います。木管五重奏のためのオリジナル曲はあまりたくさんあるように思われていませんが、探してみるとたくさん出てきます。ここでご紹介した曲がタファネルやイベール、ミヨーの曲と並ぶくらい人気のレパートリー曲になって、木管アンサンブルをやりたいという方がもっと増えるのを願っています。

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