こんにちは。H. Châteauです。みなさんクラリネットはお好きですか?クラリネットは表情豊かな音色と幅広い音域、そして数々の同属楽器があってとても魅力的ですよね。個人的にはクラリネット属の低音域が大好物です。
そこで今回は、4人のクラリネット吹きが様々な曲を演奏する「クラリネット・カルテット」をYoutubeで探し、海外のクラリネットアンサンブルの中でも特に演奏・編曲が秀逸なものをピックアップしましたのでご紹介したいと思います!
目次
- 1.L. バーンスタイン / 「キャンディード」序曲(演奏 Quatuor Anches Hantées)
- 2.G. ガーシュウィン / ラプソディー・イン・ブルー(演奏 Vienna Clarinet Connection)
- 3.G. マーラー / 交響曲第1番第3楽章より(演奏 Nieuw Amsterdams Klarinet Kwartet)
- 4.L. ガガ – N. ペトコヴィック / レディー・ガガ「バッドロマンス」のテーマによるフーガ(演奏 “Nevsky” Clarinet Quartet)
- 5.V. モンティ / チャルダッシュ(演奏 “Nevsky” Clarinet Quartet)
- 6.A. ピアソラ / リベルタンゴ(演奏 Cantarina Clarinete)
- 7.A. ピアソラ / オブリビオン(演奏 Clarinet Quartet Konick)
- 8.Z. アブレウ / Tico-Tico no Fubá(演奏 Clarinet Quartet Konick)
- 9.J. ブラームス編 / ハンガリー舞曲第5番(演奏 Clarinet Quartet Konick)
- 10.C. サン=サーンス / 死の舞踏(演奏 Edmund Welles)
- あとがき
1.L. バーンスタイン / 「キャンディード」序曲(演奏 Quatuor Anches Hantées)
Esクラ、Bbクラ2本、バスクラで構成された四重奏。アメリカの作曲家、レナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein, 1918年~1990年)のオペラ(またはミュージカル)「キャンディード」序曲の演奏です。
演奏は2001年に結成したフランスが拠点のクラリネット四重奏団Quatuor Anches Hantées(Wikipedia fr)。カタカナ読みなら「カトル・アンシェ・ホンテ」、日本語的に直すなら「ホーンテッド木管四重奏団」といったところでしょうか?メンバーはNicolas Châtelain, Élise Marre, Hainaut Bertrand, Romain Millaud氏。全員、パリ国立高等音楽・舞踊学校(仏名略称 CNSMDP。通称「パリのコンセルヴァトワール」。)やジュネーブ州立高等音楽院(Wikipedia fr)等の名だたる音楽学校を卒業しています。楽器はフランスらしくクランポンユーザーが多いのでしょうか…?
編曲はメンバーでもあるHainaut Bertrand(エノー・ベルトラン)氏(Twitter)。動画は公開された2012年以前の演奏だと思いますので、皆さん現在と風貌が異なっており誰が誰だか判別しにくいですが、とても素晴らしい編曲と演奏だと思います。
2.G. ガーシュウィン / ラプソディー・イン・ブルー(演奏 Vienna Clarinet Connection)
Bbクラ2本、バセットホルン、バスクラで構成された四重奏。アメリカの作曲家、ジョージ・ガーシュウィン(George Gershwin、1898年~1937年)のピアノと管弦楽のための作品「ラプソディー・イン・ブルー」のクラリネット四重奏演奏です。
演奏はウィーンが拠点のクラリネット四重奏団、Vienna Clarinet Connection。日本語的に言うなら「ウィーン・クラリネット・コネクション」…そのままカタカナでいいですね。メンバーはHelmut Hödl, Rupert Fankhauser, Hubert Salmhofer, Wolfgang Kornberger氏。彼らは現在皆オーストリアの音楽学校等で教鞭をとっています。日本語で紹介しているページがありましたので、こちら(LEGARE)もご参考にどうぞ。
編曲はメンバーのWolfgang Kornberger(ヴォルフガング・コルンベルガー)氏。皆さんおそらくエーラ―式のドイツまたはオーストリアのクラリネットを使用しています。バセットホルンはシュヴェンク&セゲルケでしょうか…?2016年のCDのプロモーションの一部なのでしょうか、残念ながら冒頭部分だけで終わってしまいますが、それでもとても素晴らしい演奏です。
3.G. マーラー / 交響曲第1番第3楽章より(演奏 Nieuw Amsterdams Klarinet Kwartet)
Bbクラ(Esクラ持ち替え)、Bbクラ、バセットホルン、バスクラの四重奏。A管も使っている…?オーストリアの作曲家、グスタフ・マーラー(Gustav Mahler, 1860年~1911年)の交響曲第1番の第3楽章(Feierlich und gemessen, ohne zu schleppen; 緩慢でなく、荘重に威厳をもって)のクラリネット四重奏です。
演奏はオランダが拠点のクラリネット四重奏団、Nieuw Amsterdams Klarinet Kwartet(New Amsterdams Clarinet Quartet)。日本語的に言えば「新アムステルダムクラリネット四重奏団」でしょうか。メンバーはSergio Hamerslag, Bart de Kater, Tom Wolfs, Jesse Faber氏。彼らは全員アムステルダム音楽院を卒業しており、現在はソリストやオーケストラ団員として活躍しているようです。
編曲者は明記されていません。クラリネットは全員エーラー式で、バセットホルンはやっぱりシュヴェンク&セゲルケ製。演奏は文句なく素晴らしいです。演奏場所や登場の仕方もユニークです。
4.L. ガガ – N. ペトコヴィック / レディー・ガガ「バッドロマンス」のテーマによるフーガ(演奏 “Nevsky” Clarinet Quartet)
おそらくBbクラ3本、バスクラの四重奏。アメリカの音楽家・歌手、レディー・ガガ(Lady Gaga, 1986年~)の歌曲「バッド・ロマンス」(原曲Youtube)のテーマをネナンド・ペトコヴィック(Nenad Petkovic)氏がクラリネット四重奏のフーガにアレンジしたものです。ペトコヴィック氏の詳細はわかりませんでした。
演奏はセルビアが拠点のクラリネット四重奏団「ネフスキー」(“Nevsky” Clarinet Quartet)。メンバーはBjelica Milos, Bou Adam, Ulemek Nikola, Jovanovic Djordje氏。ネフスキーは、セルビアのクラリネット奏者リュビサ・ジョバノービック(Ljubiša M. Jovanovi)氏に指導を受けています。ネフスキーの特徴はなんといっても演奏中のパフォーマンス。演奏自体はクラシックの奏法を踏襲しつつ、舞台芸術振付師や演劇ディレクターと協力してダンスや演技をもって視覚でもお客さんを楽しませるユニークなクラリネット四重奏団です。なお、ネフスキーはクラリネットメーカー、セルマー・パリのアーティストだそうです。
曲はレディー・ガガの「バッド・ロマンス」のテーマをフーガの形式で書き現代の音型とクラシカルの伝統が見事に融合したアレンジ曲です。このような現代と伝統の融合はとても好きなので、もっとクラシック業界にこのようなタイプのものが増えて、クラシカル・レパートリーの一ジャンルとして後世にも残っていってほしいと思っています。
5.V. モンティ / チャルダッシュ(演奏 “Nevsky” Clarinet Quartet)
おそらくBbクラ3本、バスクラの四重奏。イタリアの作曲家、ヴィットーリオ・モンティ(Vittorio Monti, 1868年~1922年)のマンドリン(またはヴァイオリン、ピアノ等)の曲「チャルダッシュ」のクラリネット四重奏です。編曲者は不明です。チャルダッシュとは「ダッシュ=勢いよく走る」とは無関係で、19世紀以前のハンガリーで兵士が居酒屋(チャールダ)で兵士募集のために踊り、それが農民の改作も交えて次第に芸術的要素を増していったものだそうです(Wikipedia)。
演奏はセルビアが拠点のクラリネット四重奏団「ネフスキー」(“Nevsky” Clarinet Quartet)。先ほどのレディー・ガガのフーガでもご紹介した団体で、こちらの動画の方がしっかりパフォーマンスしています。こんなに動きながら、演技構成を覚えながらもしっかり超絶技巧をしているのには脱帽です。
6.A. ピアソラ / リベルタンゴ(演奏 Cantarina Clarinete)
Bbクラ3本、バスクラの四重奏。アルゼンチンの作曲家、アストル・ピアソラ(Astor Piazzolla, 1921年~1992年)のタンゴ「リベルタンゴ」のクラリネット四重奏版です。編曲はイタリアのクラリネット奏者グイード・アルボネッリ(Guido Arbonelli)氏によるもの。
演奏は2011年に結成したチェコが拠点のクラリネット四重奏団「カンタリーナ・クラリネッテ」(Cantarina Clarinete)。おそらくスペイン語でしょうか。Cantarinaは「ステージ上で歌う女性(つまり歌手)」で、Clarineteはクラリネットです。彼女らのホームページにも、団体名の由来は「全員クラリネット奏者かつ、数名が歌手でもあるので、歌うクラリネットから名付けた」ようなことが書かれています。メンバーはHanka Tauchmanová, Jana Lahodná, Jana Černohouzová, Věrka Kestřánková氏。彼女らはプラハ音楽院やプラハ音楽アカデミーの音楽ダンス学部等チェコの名だたる音楽学校で学び、現在もコンサートや講師・レッスンプロ等として活動しています。
女性四人ですが、とても力強く躍動的な演奏です。もっと聴きたくなるくらいカッコイイです。
7.A. ピアソラ / オブリビオン(演奏 Clarinet Quartet Konick)
Bbクラ3本、バスクラの四重奏。アルゼンチンの作曲家、アストル・ピアソラ(Astor Piazzolla, 1921年~1992年)のピアノ独奏曲「オブリビオン(忘却)」のクラリネット四重奏版です。オブリビオンは、1984年のイタリア映画『エンリコ4世』のためにピアソラが書き下ろした5曲のうちの1曲です。編曲者はわかりませんでした。
演奏は、ルーマニアが拠点のクラリネット四重奏団「コニック」(Cvartetul Konick, Clarinet Quartet Konick)です。ホームページにアクセスしても表示できないので、詳細は不明です。動画投稿者のMihai Dina氏はコニックのメンバーであり、ルーマニア・ブカレストにあるアメリカ・インターナショナルスクール(AISB)のシングルリード教師であり、ルーマニア放送交響楽団(National Radio Orchestra of Romania)のソリストでもあるようです。他の方は、CDのページを見るとVasile Mocioc, Andrei Cristian Theodoru, Cristian Eugeniu Petrişor氏で、Mihai Dina氏も含めておそらく全員ブカレスト音楽院(Conservatorul din Bucureşti, 現在のブカレスト国立音楽大学?)を卒業しています。
オブリビオンはメロディも伴奏もメランコリーなのがいいですね。でももう少しアルト音域の編曲の方が個人的には好みかもしれません。
8.Z. アブレウ / Tico-Tico no Fubá(演奏 Clarinet Quartet Konick)
Bbクラ3本、バスクラの四重奏。ブラジルの作曲家、ゼキーニャ・ドゥ・アブレウ(Zequinha de Abreu, 1880年~1935年)が作曲したブラジルのポピュラー音楽(ショーロ)の楽曲を、クラリネット四重奏にしたものです。Tico-Tico no Fubáは「粉をついばむ雀」の意味だそうです。編曲者はわかりませんでした。Tico Ticoの楽曲自体は、トロンボーン奏者でありバンドリーダーかつ編曲者でもあったレイ・コニフ(Ray Coniff)・シンガーズの演奏で世界的に有名になったようです。
演奏は、先ほどと同様ルーマニアが拠点のクラリネット四重奏団「コニック」です。木管楽器でポップスをやるなら、やはりクラリネットが似合います。
9.J. ブラームス編 / ハンガリー舞曲第5番(演奏 Clarinet Quartet Konick)
Bbクラ3本、バスクラの四重奏。ドイツの作曲家、ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms, 1833年~1897年)が編纂したピアノ曲「ハンガリー舞曲」より第5番のクラリネット四重奏版です。よくCMにも使われる有名な曲です。編曲者はわかりませんでした。
演奏は、先ほどと同様ルーマニアが拠点のクラリネット四重奏団「コニック」です。ハンガリー・ルーマニアといえばジプシー音楽(ロマ音楽)の本場。テンポの揺らし具合や、カッチリとしていないリズム、クラリネットから若干ビブラートのような響きも聴こえるあたりなど、さすがジプシーの音楽が根付いている国のミュージシャンだなと思います。
10.C. サン=サーンス / 死の舞踏(演奏 Edmund Welles)
最後はなんとバスクラリネット4本による四重奏。フランスの作曲家、カミーユ・サン=サーンス(Camille Saint-Saëns, 1835年~1921年)が作曲した交響詩「死の舞踏」のバスクラリネット四重奏版です。編曲はバスクラリネット奏者かつ作曲者、尺八奏者でもあるコーネリウス・ブーツ(Cornelius Boots)氏。
演奏はアメリカが拠点のバスクラリネット四重奏団「Edmund Welles」(Wikipedia en)。カタカナでいえば「エドムンド・ウェルズ」でしょうか。メンバーは編曲したブーツ氏のほか Jonathan Russell, Jeff Anderle, Aaron Novik氏です。全員ともバスクラリネット奏者であり、「エドムンド・ウェルズ」としてはアルバムも何枚か出しています。クラシックだけではなく、ロックや前衛的な作品も演奏しているようです。
いくらクラリネットの音域が広めとはいえ、バスクラリネットのみでほとんど曲の省略もありません。編曲するのも大変ですが演奏するのもすごいと思います。
あとがき
いかがでしたでしょうか?クラシックからポップス、ジャズのような曲まで、クラリネットのみでもさまざまな表現をできるのがクラリネットという楽器の強みだと思います。バスクラリネットやバセットホルンなどの特殊楽器も魅力的で、それぞれの特徴が十分に活かされた編曲も多かったです。素晴らしい編曲と素晴らしいプレイヤーが合わさったとき、後世に残る曲となっていくのかもしれません。