こんにちは、H. Châteauです。前回、マイナー木管五重奏曲をご紹介しましたが、探してみたらまだまだあったので、今回も10曲ご紹介したいと思います!!今回も皆さんが気に入る曲が1つでもあれば嬉しいです。なお、今回はFl,Ob,Cl,Hr,Fgの編成以外のものも複数ありますので、演奏する際にはご注意ください。また、前回の記事よりさらにマイナーな曲が増え、一部音源はアマチュアさんのものも含みますのでご了承ください。
ちなみに、日本では一般的にWind Quintetを「木管五重奏」と訳していますが、最近Wood Wind Quintetは「木管五重奏」で、Wind Quintetだけなら「管楽五重奏」と訳したほうがいいのでは、と考えています。記事内で誤解を招きかねない部分は木管五重奏としていますが、今回曲名のほとんどを「管楽五重奏」で訳しています。ご了承ください。
目次
- 1.F. J. ハイドン「管楽五重奏曲ヘ長調 Hob II:F12」(???)
- 2.L. v. ベートーヴェン「管楽五重奏曲変ホ長調 WoO208(Hess 19)」(1793)
- 3.G. カンビーニ「管楽五重奏曲第一番変ロ長調(No.1 B-dur)」(1802)
- 4.G. オンスロー「管楽五重奏曲, op.81」(1850?)
- 5.B. M. コロマー「管楽五重奏のためのメヌエット」(1870?)
- 6.C. ルフェーブル「管楽組曲第一番, op.57」(1884出版)
- 7.J. B. フェルステル「管楽五重奏曲 Op.95」(1909?)
- 8.P. ユオン「管楽五重奏曲変ロ長調, op. 84」(1928)
- 9.S. ワシレンコ「トルクメンの主題による五重奏曲, op. 65」(1930)
- 10.F. ファルカシュ「17世紀の古いハンガリーの舞曲」(1959)
- あとがき
1.F. J. ハイドン「管楽五重奏曲ヘ長調 Hob II:F12」(???)
オーストリアの作曲家、フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(Franz Joseph Haydn, 1732年 – 1809年)が作曲した、F-durで2Ob, Fg, 2Hrの五重奏曲です。5楽章構成で、約9分程度です。
軽快なファゴットと、ホルンの伴奏の中にオーボエが歌う第一楽章アレグロ、オーボエの対旋律のファゴットが光る三拍子の第二楽章メヌエット、メヌエットに続いて軽快な三拍子の第三楽章アレグロ、第一楽章のような軽快なファゴットが表れる三拍子の第四楽章メヌエットが続き、長いファゴットの独奏や、オーボエとホルンに軽快なフレーズが表れる第五楽章プレストとなって終わります。
古典の曲らしくオーボエは旋律中心でホルンが伴奏中心、ファゴットが一人で旋律も伴奏も行うような構成になっており、特にファゴット奏者の実力が試されますが、室内楽作品として聴きやすく可愛らしいものです。フルートとクラリネットはありませんが、演奏会の小品としておススメの一曲です。
I. Allegro
II. Menuetto
III. Allegro
IV. Menuetto
V. Presto
ハイドンは膨大な作品を残しており、管楽器の室内楽も大量にあります。おそらくハイドンの管楽曲だけで1記事書けるレベルです。この曲は楽曲一覧には載っていますが、まだIMSLPには掲載されていませんので、研究が進んでいない(あるいはIMSLPに掲載できるほど昔の楽譜がない)のかもしれません。
Wikipedia(日本語) / ハイドンの管弦楽曲一覧
IMSLP / Category:Haydn, Joseph
2.L. v. ベートーヴェン「管楽五重奏曲変ホ長調 WoO208(Hess 19)」(1793)
ドイツの作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven、1770年 – 1827年)が1793年(23歳)に作曲した、Ob, 3Hr, Fgのための五重奏曲です。全3楽章、演奏時間は約14分です。
第一楽章はベートーヴェンの断片のみしかなかったため、オーストリアの作編曲家・音楽評論家のレオポルド・アレクサンダー・ツェルナー(Leopold Alexander Zellner, 1823年 – 1894年)により補完されました。
ホルンの三重奏で始まる第一楽章アレグロ、優しい旋律をホルンとオーボエで奏す第二楽章に続き、軽快な三拍子のメヌエットで曲を終えます。
ハイドンと比較すると、曲中でホルンが旋律や伴奏全てをこなしているだけでなく、ホルンがファゴットやオーボエのメロディーの和音を作るなど、ホルンの可能性を広げているように感じます。まだナチュラルホルンの時代のはず(バルブホルンの発明は1815年頃らしい)ですがたくさんの役割を与えられており、当時モーツァルトやハイドンの交響曲のほとんどはホルンを2本(まれに4本)しか使わなかった時代の中で、室内楽でもホルンを3本使うという構成が、ベートーヴェンの既存から脱却しよう(あるいは進歩させよう)とする精神が垣間見えます。彼の交響曲第3番「英雄」(1804年)はこの曲同様ホルン3本を用いていますが、その英雄の約10年前にホルンの役割を拡大させるような本曲を作っていることに驚きです。
I. Allegro
II. Adagio maestoso
III. Minuet. Allegro
アレクサンダー・ツェルナーはオルガニスト・作曲家でありましたが、現在はほとんど作品が知られていません。当時は評論家としても名があったようで、1855年~1873年に発行されていた週刊誌「音楽・演劇・芸術誌(Blätter für Musik, Theater und Kunst)」の設立者でした。また、ウィーン楽友協会の事務局長になったこともあったようです。
なお、作品番号のHessとはスイスの音楽学者ウィリー・ヘスが、Op.やWoO等の作品目録に漏れている作品を拾いなおし、断片や未完作品も整理するためにつけた番号です。この作品番号Hess 19はツェルナーが補完した版の作品となっています。
Wikisource / BLKÖ:Zellner, Leopold Alexander
Wikipedia(ドイツ語) / Blätter für Musik, Theater und Kunst
IMSLP / Wind Quintet in E-flat major, Hess 19 (Beethoven, Ludwig van)
IMSLP / Category:Zellner, Leopold Alexander
3.G. カンビーニ「管楽五重奏曲第一番変ロ長調(No.1 B-dur)」(1802)
イタリアの作曲家、ジュゼッペ・カンビーニ(Giuseppe Cambini, 1746年 – 1825年)が1802年(56歳)に作曲した、Fl, Ob, Cl, Fg, Hrのための五重奏曲です。全3楽章で、演奏時間は約14分です。
ユニゾンで始まり、伴奏の上に各楽器がメロディーを演奏する第一楽章、ホルンの優しいメロディーで始まる各楽器に紡がれていく第二楽章、attacaのように始まる華やかで軽快な第三楽章となっており、全体的に優しい曲調です。
メロディーラインにFl, Ob, Cl、Fg, Hrが伴奏や対旋律に回ることの多い古典的な管楽五重奏の構成ですが、意外とファゴットやホルンがメロディーで活躍する場所も多く、アントン・ライヒャやフランツ・ダンツィより前に作曲された木管五重奏にしてはバランスが取れているように感じます。
I. Allegro maestoso
II. Larghetto cantabile
III. Rondo: Allegretto grazioso
カンビーニはどのように音楽教育を受けたかの記録が少ないようですが、19歳のときにはメヌエットで有名なボッケリーニらと弦楽四重奏団を組み、ヴィオラ奏者としてヨーロッパで評判だったようです。24歳でオペラ作曲家としてデビューしましたが、鳴かず飛ばずで27歳でパリに移り、そこで成功を収めました。モーツァルトより10歳年上で、モーツァルトと多少トラブルもあったようですが、お互い才能は認めていたようです。
カンビーニは木管五重奏の開拓者といわれるアントン・ライヒャよりも年上で、もしかしたら現在一般的な木管五重奏の編成(Fl, Ob, Cl, Fg, Hr)の五重奏曲の最初の作曲者であるかもしれません。そしてこの曲が現代木管五重奏編成の最古の曲の可能性もあります(現在調査中)。ライヒャの木管五重奏曲のNo.1の出版が1818年ですが、この曲はそれよりも16年も先に作曲されているためです。また、カンビーニはハイドンより年下ですがモーツァルト・ベートーヴェンよりも年上で、ハイドン・モーツァルト・ベートーヴェンの三人は現代木管五重奏編成の曲を作曲していないためです(現在有名なハイドンのディベルティメントは編曲されたもので、原曲はオーボエ・ファゴット・コントラファゴット・ホルンの八重奏。)。なお、この五種類の楽器を複数用いた作曲家はカンビーニ以前にアントニオ・ロセッティ(IMSLP)がいます。
カンビーニは多作家で、13曲のオペラや80曲以上の交響曲・協奏曲を作曲していますが、何よりも400曲を超える室内楽が魅力的です。管楽器のための室内楽は他にも管楽五重奏曲第二番(No.2 D-moll)、第三番(No.3 F-dur)がありますので、いずれご紹介いたします。なお、これらの管楽譜はIMSLPには掲載されていませんが、楽曲リストには記載されています。
Wikipedia(日本語) / ジュゼッペ・カンビーニ
IMSLP / List of works by Giuseppe Maria Cambini
4.G. オンスロー「管楽五重奏曲, op.81」(1850?)
フランスの作曲家、ジョルジュ・オンスロー(George Onslow, 1784年 – 1853年)が1850年?頃(66歳頃)に作曲した管楽五重奏曲です。全4楽章、18分程度です。
付点のリズムが軽快でフルートを中心に各楽器が跳ね回る第一楽章、冒頭の元気なユニゾンが特徴的で楽曲内で度々繰り返される第二楽章スケルツォ、オーボエのメランコリックなメロディーで始まる物悲しい第三楽章、6/8拍子の軽快に踊るような第四楽章フィナーレとなっています。
ロマン派らしい聴きやすさで、演奏も難しすぎない印象ですが、メロディーの多いフルート、クラリネットに技量が必要な印象を受けました。
I. Allegro non troppo
II. Scherzo. Energico
III. Andante sostenuto
IV. Finale. Allegro spirituoso
動画の後半(19:33)はアブロス・ティビツェン(Avlos Tibizen)「運命の衝撃のモットーによる音楽の冗談(Wind Quintet “Destiny with Blow” )」だそうです。
オンスローはピアノと木管のアンサンブル曲おすすめ10選 part 3(四~七重奏曲)でもご紹介していますが、木管五重奏の開拓者のアントン・ライヒャ(木管五重奏曲を24曲残しました。)に学びました。しかしその割には、オンスローは木管五重奏をこの1曲しか残しておらず、逆に弦楽四重奏曲を37曲、弦楽五重奏曲を34曲残しています(反対にライヒャは弦楽全体で30曲前後)。これは単に、ライヒャがフルート奏者だったこと、オンスローがチェロ奏者だったことが影響しているのかもしれません。
この曲でフルートの活躍が多いのは師のライヒャの影響かもしれません。
Wikipedia(日本語) / ジョルジュ・オンスロー
Wikipedia(英語) / George Onslow (composer)
IMSLP / Wind Quintet, Op.81 (Onslow, George)
5.B. M. コロマー「管楽五重奏のためのメヌエット」(1870?)
スペインの作曲家、ブラス・マリア・コロマー(Blas María de Colomer, 1833年 – 1917年)が1870年?(37歳)に作曲した、Fl, Ob, Cl, Fg, Hrのための五重奏曲です。なお、出生は1840年との情報もあり、その場合作曲は30歳頃になります。単一楽章で4分に満たない短い曲です。
三拍子で優しい曲調のメヌエットです。演奏も難しくないでしょう。
コロマーは当初バレンシア(スペイン)で学び、その後1851年(18歳)からパリ音楽院で学んだようです。もし出生が1840年とするとパリ音楽院に入ったのは11歳になるので、出生は1833年頃の方が可能性高く感じます(天才的な人物だったなら当然可能性はあると思いますが)。1869年(36歳)にはレジオン・ドヌール勲章を受けた私立校でピアノと和声の教授になったようです。交響曲や協奏曲、バレエ音楽やピアノ曲を作曲しており、オペラはナポレオン三世主催のコンテストでファイナリストにもなったようですが、なにぶん情報が少ないため彼の音楽人生がどのようなものだったかはいまいちわかっていません。
Wikipedia(スペイン語) / Blai Maria Colomer
IMSLP / Menuet for Wind Quintet (Colomer, Blas María de)
6.C. ルフェーブル「管楽組曲第一番, op.57」(1884出版)
フランスの作曲家、シャルル・ルフェーブル(Charles-Édouard Lefebvre, 1843年 – 1917年)が作曲し1884年(41歳)に出版された、Fl, Ob, Cl, Fg, Hrのための五重奏曲です。3楽章構成で、演奏時間は12分程度です。
短調で始まり各楽器がメロディーを追いかけていく第一楽章カノン、ホルンののどかな音色と木管の軽やかな動きがどこかフランスの田舎を感じさせる三部形式の第二楽章、軽やかでどこかハキハキとした行進曲調な第三楽章からなり、各楽章短くて聴きやすく演奏しやすいと思います。聴いているとフランスの田舎(プロヴァンスとか)がイメージされてしまうのはなぜでしょう。
I. Canon (Moderato.)
II. Allegro scherzando. -TRIO (Lo stesso tempo.)
III. Finale. (Allegro leggiero.)
ルフェーブルは法学を学んだあと、パリ音楽院に入りグノーに学びました。カンタータ「神の裁き」でローマ賞を受賞し、イタリアに滞在後、ギリシャやオリエントに旅をしています。そのこともあり、彼の音楽には東方の風味があったりもします。1895年(52歳)でパリ音楽院で室内楽の教授になりました。現在ではほとんど知られていませんが、オペラ、交響曲、序曲、合唱曲の他数多くの室内楽作品を残しています。
Wikipedia(英語) / Charles-Édouard Lefebvre
Wikipedia(フランス語) / Charles Lefebvre
IMSLP / Suite for Winds No.1, Op.57 (Lefebvre, Charles)
7.J. B. フェルステル「管楽五重奏曲 Op.95」(1909?)
チェコの作曲家、ヨゼフ・ボフスラフ・フェルステル(Josef Bohuslav Foerster, 1859年 – 1951年)が1909年?頃(50歳くらい?)に作曲したD-durの五重奏曲です。四楽章構成で、演奏時間は18分程度です。
付点のリズムにチェコらしさを感じつつ、三連符や六連符、9/8拍子などのリズムがたゆたう第一楽章、ゆっくりとした冒頭も中間部アレグロもメロディーがシンコペーション風(またはヘミオラ風)で特徴的な第二楽章、軽快ですが妖しい雰囲気でのどかな中間部との対比が激しい第三楽章、頻繁に曲の雰囲気が移り変わっていくフィナーレ風の第四楽章となっています。
I. Allegro moderato – Un poco meno mosso – Meno mosso (quasi Andante)
II. Andante sostenuto
III. Allegro scherzando (due batutte)
IV. Moderato e tranquillo – Allegro moderato
フェルステルはプラハで生まれ、プラハ音楽院で学んだ生粋のチェコ作曲家(途中でハンブルクやウィーンでも教鞭をとっています)です。時代的にはロマン派~後期ロマン派ですが、作曲家にしては珍しい長生き(91歳没)でした。ドヴォルザークよりも18歳年下で、彼の伝統を受け継ぎつつ後期ロマン派のような和声の拡大等も取り入れていたようです。マーラーとは1歳差のほぼ同い年で、ハンブルクで彼に会い、彼の支持者になったようです。オペラから交響曲、室内楽までかなりの曲を残しています。残念ながら木管五重奏はこの1曲だけのようですが、それでもチェコらしさや近代らしさまでふんだんに取り入れられた充実した一曲になっていると感じます。
Wikipedia(日本語) / ヨゼフ・ボフスラフ・フェルステル
IMSLP / Wind Quintet, Op.95 (Foerster, Josef Bohuslav)
8.P. ユオン「管楽五重奏曲変ロ長調, op. 84」(1928)
スイス系ロシアの作曲家、パウル・ユオン(Paul Juon, 1872年 – 1940年)が1928年(56歳)に作曲した、Fl, Ob, Cl, Fg, Hrのための五重奏曲です。B-Durでおそらく3楽章構成、演奏時間は20分程度と思われます。
第一楽章はホルンの独奏で華々しく始まり、フルートが華やかかつ軽やかですが、どこかB-Durとは感じにくいやや近代的な和音が出てきたりもします(しかし無調ではありません)。旋律自体も断片ではなくはっきりしていますが、どっちが主旋律でどっちが対旋律(あるいは装飾音)か分かりにくいような構成になっており、ユオンの木管作品「ディベルティメント」よりも近代的な作りで、ややとっつきにくさを感じます。なお、他の楽章の動画はなく、楽譜もないためどのような曲かはわかりません(i tuneにはあるようです)。
I. Allegro
II. Larghetto
III. Allegro molto
ユオンについてはこちらの記事でも紹介していますが、ロシア生まれでモスクワ音楽院に入学し、ヴァイオリンや作曲・音楽理論を学んだ後、ドイツのベルリン高等音楽学校に留学しました。卒業後はロシアに戻ったりしますが、最終的にベルリン高等音楽学校の校長になった作曲家です。ユオンは交響曲等も作曲していますが、木管楽器関係では他にピアノと木管の六重奏の「ディベルティメント」(1913以前)を作曲しています。六重奏はこの曲よりも10年以上前の作品でした。
楽譜はIMSLPにはありませんが、楽曲一覧に記載されています。なお、一覧では1930年作曲になっていましたが、ここでは動画に倣い1928年としています。
Wikipedia(日本語) / パウル・ユオン
Wikipedia(英語) / Paul Juon
IMSLP / List of works by Paul Juon
9.S. ワシレンコ「トルクメンの主題による五重奏曲, op. 65」(1930)
ロシアの作曲家、セルゲイ・ワシレンコ(Sergei Vasilenko, 1872年 – 1956年)が作曲した、Fl, Ob(E.H), Cl, Fg, Percのための五重奏曲です。木管アンサンブルに打楽器が入るのは非常に珍しいです。なお、英語タイトル(Quartet on Turkmenian Themes, for Flute, Oboe (English horn), Clarinet, Bassoon and Percussion ad lib. (1932))ではPerc.がad libとなっていますので、打楽器がなくても演奏できると思います。全部で5曲からなり、演奏時間は15分程度です。
なお、トルクメンはおそらく「トルクメン人」のことであり、国としてはトルコではなくアゼルバイジャンとカスピ海を挟んだ対岸のトルクメニスタンのことかと思われます。各曲のタイトルはトルクメニスタンの歌(民族音楽)に基づくのではないかと思いますが、なにぶんワシレンコとトルクメニスタンの情報が不足しているため、詳細は不明です。
第一曲はBuried city、意味合いは「忘れられた街」でしょうか。ファゴットから始まるややメランコリックなテーマが各楽器で演奏されていきます。中間部は民族音楽のダンスのようです。第二曲はMy love has gone、意味合いは「愛は消えた(終わった)」でしょうか。フルートやクラリネットのトリルのような細かい動きが特徴的で、メロディーは西洋的な「悲しい愛」のイメージが沸きます。第三曲はSunsetで「日没」、クラリネットとファゴットの冒頭部分が夜のとばりを感じさせ、フルートやイングリッシュホルンのメロディーが沈んでいく日を表しているかのようです。この曲の中間部ではスネアドラムが登場します。スネアドラムの部分で激しくなりますが、何を表しているのでしょう。第四曲はThe Larkで「ひばり」、フルートの動きがひばりの鳴き声のようです。この曲ではトライアングルが使われています。第五曲はThrough the desert、「砂漠を越えて」でしょうか。クラリネットとフルートが砂漠に吹く風のようです。この曲ではタンバリン、トライアングルが使われており、非常に民族音楽感、中央アジアらしさを感じます。
中央アジアの曲調なので西洋音楽の長調にあるような明るい雰囲気はなく、短調寄りでどちらかといえば調性感が薄いものの、20世紀も30年過ぎた頃の曲にしては近現代曲っぽさはなく、意外と聴きやすく演奏もしやすいように感じます。通して聴いてみるとパーカッションはなくても演奏可能かと思いますが、あったほうが雰囲気は出ると思います。
I. Buried city
II. My love has gone
III. Sunset
IV. The lark
V. Through the desert
ワシレンコは16歳まで音楽教育を受けておらず、大学も最初はモスクワ大学で法理学を学んでいました。ピアノと作曲は23歳からモスクワ音楽院にて、セルゲイ・タネーエフやイッポリトフ=イワノフから学んでいたようです。29歳で音楽院を卒業し、その後は歌劇場の指揮者になったようです。34歳からモスクワ音楽院の講師となり、翌年には教授となって晩年まで勤めたようです。
ワシレンコは指揮者として活動していたのもあり、作品の多くが管弦楽曲で、オペラや協奏曲、交響曲も作曲していました。作風は当初は印象派の影響を受けていたようですが、30歳前後(1920年あたり)から民族音楽に興味を示し、日本や中国の曲だけでなく、ニュージーランドのマオリ族の歌も曲にしているほど関心があったようです。この五重奏曲はまさに民族音楽の影響を受けているでしょう。
Wikipedia(日本語) / セルゲイ・ワシレンコ
Wikipedia(英語) / Sergei Vasilenko
IMSLP / Category:Vasilenko, Sergey
10.F. ファルカシュ「17世紀の古いハンガリーの舞曲」(1959)
ハンガリーの作曲家、フェレンツ・ファルカシュ(Ferenc Farkas, 1905年 – 2000年)がおそらく1943年(38歳)に作曲し1959年(54歳)にFl, Ob, Cl, Fg, Hrのために編曲した五重奏曲です。おそらく1943年に作曲というのは、この曲は本人による様々な編曲(例:独奏アコーディオン、独奏ギター、独奏ハープ、フルートとピアノ、ヴァイオリン・ヴィオラ・ハープ、クラリネット四重奏、サックス四重奏、金管五重奏等々他にもたくさん)があり、さらにそれぞれ曲構成が異なっているため、初期版が何年に作曲されたかの情報が今のところ見つからないためです。この管楽五重奏版は1959年に5曲構成で作曲(編曲)されたもので、演奏時間は全部で10分程度です。
第一曲は祝祭風・行進曲風の導入曲「イントラーダ」、第二曲はハンガリーの舞曲「チャルダッシュ」における緩やかな導入部を指す「ラッス」です。第三曲は「ラポツカ・タンツ」…肩甲骨のダンスでしょうか??どんな踊りかはわかりません。第四曲は「コレア」で、医学的には舞踏病を意味しますが、ギリシャ語の語源では「踊り」を意味しています。ハンガリーでは「舞踏歌」のことを指すのか、youtubeで他のchorea動画を検索してもこの曲と同様のゆったりとした曲が見つかりました。第五曲「ウグロス」は、ハンガリーの民族舞踊でウェポンダンスが起源となっており、2/4拍子かつ裏打ちのビートが特徴的な、2人組でジャンプする踊りのようです。特にこの第五曲はメジャーな曲です。ファルカシュのこの曲はメジャーだと思いますが、あまり世界的なプロアンサンブルに演奏されていなかったり、CDが少なかったりするためここでご紹介しました。
I. Intrada
II. Lassù (lento)
III. Lapockàs tànc (Danza delle scapole)
IV. Chorea
V. Ugròs (Saltarello)
フェレンツ・ファルカシュは17歳から22歳までハンガリーの国立ハンガリー音楽専門学校(現フランツ・リスト音楽院)で学び、24歳から26歳にかけてローマ(イタリア)のサンタ・チェチーリア国立アカデミアでレスピーギに学びました。その後、ハンガリー、ウィーン(オーストリア)、コペンハーゲン(デンマーク)で映画監督の元、映画音楽を作成しています。29歳になり、彼は「バルトークとコダーイの仕事と研究は、ハンガリー人として私たちが解決しなければならない重大な問題を提起したことがはっきりと分かりました。」といい、ハンガリーの伝統音楽(フォークソング)を集め研究をすることになりました。その後、ルーマニアの音楽院の教授を経て、母国のリスト音楽院の教授となります。彼の教え子には「6つのバガテル」で有名なジョルジュ・リゲティらがいました。作風は近現代風なものよりも、メロディーやリズムがはっきりした伝統的なものを好んだようです。
ファルカシュはオペラ・管弦楽曲・協奏曲・映画音楽・室内楽作品・器楽曲・声楽曲など、多岐にわたるジャンルで700曲以上を作曲したといわれています。なお、2000年にお亡くなりになっていますので、著作権フリーになるまでにはだいぶ時間がかかりますが、それでも是非いろいろな作品を聴いてみたいものです。
Wikipedia(日本語) / ファルカシュ・フェレンツ
Wikipedia(英語) / Ferenc Farkas
Wikipedia(ハンガリー語) / Farkas Ferenc (zeneszerző)
Ferenc Farkas / Early Hungarian dances from the 17th century / Antiche danze ungheresi del 17. secolo for wind quintet
ハンガリー民族舞踊団 / レパートリー
あとがき
あまり知られていない楽曲をご紹介しましたがいかがでしたでしょうか?各曲で楽曲や作曲者の解説のようなものを書いておりますが、楽曲の感想はあくまでも私見で、作曲者の解説はほぼすべてWikipediaから引っ張ってきておりますので、もし演奏会のパンフレット等に載せる際にはお気をつけ頂きますようよろしくお願いします。
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